Lucas Le Bihan
パリのエコール・エスティエンヌを卒業して日の浅いLucas Le Bihan(ルカ・ル=ビアン)は、現在タイプデザイン専門のデザイナーとして活動中。エンジニアの両親を持ち、自身も理系出身であるLucasは、数学的かつプロセス重視型の手法で制作に着手し、制作の最終工程で初めてデザインに関する決定に触れていくのだという。デザイナー優位のバブル景気にも似た社会に身を閉ざすのではなく、あらゆる分野に門を開くことで、彼はこれまでに工学や重工業などの分野で活躍する予想外のパートナーたちとのコラボレーションを実現してきた。その寛容な姿勢は文化に関しても同様で、横浜のデザインスタジオ「Nosigner」で3ヶ月のインターンシップを経験して以来、Lucasは日本文化に首ったけだ。今回、初の試みとなるLucasのロングインタビューでは、彼がタイプデザイナーになった経緯から、そのフォントデザインを支える制作アプローチ、彼の制作に刺激を与え続けてきた文化的影響について語ってくれた。先日、「Velvetyne(ベルベティヌ)」1でリリースしたフォント「Sporting Grotesque(スポーティング・グロテスク)」が記憶に新しいLucasだが、今度は元級友のJames Briandt(ジェームズ・ブリアン)との共同で、デザインスタジオ「Dreams Office(ドリームス・オフィス)」の設立を控えている。
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まずはじめに、自己紹介をしていただけますか。
職業はタイプデザイナーです。タイプデザインの修士号を取得して、つい最近パリのエコール・エスティエンヌ2を卒業しました。 大学院以前には、故郷のブルターニュでファウンデーションコースを修了し、パリに越してエコール・エスティエンヌでグラフィックデザインの学士を習得しています。
デザイナーとしての軌跡
以前からグラフィックデザインの道に進みたいと思っていたのですか。
いいえ、そうでもありません。はじめに僕が興味を持っていたのは、ボートのインテリアスペースのデザイン、分かりやすく言うとボートのインテリアデザインでした。3それでアートファンデーションを始めたのですが、4意匠図の描画が得意でないことに気づき、途中でインテリアデザインからグラフィックデザインにコースを変更しました。技術的なドローイングのほうがはるかに得意だったので、グラフィックデザインのほうが自分の可能性を伸ばせるのではないかと感じました。
グラフィックデザインからタイプデザインに移ったきっかけは?
グラフィックデザインの学士課程はとても一般的で、グラフィクデザインについて満遍なくカバーした内容でした。僕は実用的な技術や知識を身につけたかったのですが、実際はかなりコンセプト重視型だったので、期待とはかけ離れていました。だけど、大学2年目のときにタイプデザインには興味を持つことが出来ました。実践的で具体的な技術、すなわち専門技能を習得できるように思えたことが理由です。実用性のあるものを習得したいと思っていたので、タイプデザイン専攻で修士課程に進むことを決意しました。
コースでは、各々がタイポグラフィーに対して独自の関心や意見を持っていました。各自が一種の権限を与えられ、アイデアを交わし、議論しました。カリグラフィーを用いた伝統的なタイプデザインや、広告や商業向けのタイポグラフィーを作ることに興味を持つ人もいました。タイポグラフィーについて比較的コンセプチュアルな研究をしたいと望む人もいれば、僕のように実験的なタイポグラフィーに魅かれる人もいました。
制作プロセス
具体的にタイプデザインのどのようなところに興味を引かれていますか。
僕は理系出身なので、5 現在のタイプフェイスデザインがどのように成立しているのか、という点に興味を抱いてきました。タイプデザインの制作方法は、伝統的なものから、技術的でコンピューター駆動型のものに移り変わり、そのなかで用いられる最新技術は、私たちのデザインの見方を変えました。僕は「タイプフェイスは、実際どのように構成されているのだろうか。スクリーンに浮かぶタイプフェイスの背景には一体なにがあるのだろうか。僕たちが操作するポイントには何が隠されているのだろうか。曲線には?」、と自問自答を繰り返します。なので、書体をデザインするときは、まず結果を気にしないように努め、形作りのプロセスに集中するようにします。自分が価値や面白みを見出せるプロセスを見つけるところから始めるのが大切で、途中からタイプデザイナーにスイッチを切り替え、誰でも使うことのできるようなちゃんとしたタイプフェイスに仕上げます。こうしたタイプデザインの制作工程と、その意図を重要視しています。
制作構成の意図がとても興味深く思えます。何か実例を聞かせていただけますか。
僕のアプローチは、修士の卒業制作に集約されていると思います。「The Writing of Programmes(「ザ・ライティング・オブ・プログラムズ」)」という卒業論文では、タイプデザインに用いられるソフトフェアについて研究しました。6 複数のプログラムの仕組みを紐解くために、開発とコーディングの方法、制作者のプロフィール、彼らの働き方や考え方について調査しました。そして、ソフトウェアのコーディング方法とエンジニアの思想と結びつけようと試みました。各プログラムの特徴をあぶり出すことで、エンジニアの働き方や考え方など、彼らの手法を理解しようとしたのです。研究の目的は、デザインソフトウェア7に使用されている独自プロセスを特定し、それを自分のタイプデザインに適用することでした。
研究から明らかになったのは、こうしたプログラムが制作者のエンジニアによる最適化 8工程で生み出されているということでした。彼らは自分たちの商品をできる限り効率化することに躍起になっています。こうした彼ら独自の思想が、僕には興味深く思えました。それで、最適化工程をタイプデザインに適用すれば、ユニークなものが出来るのではないかと考えたのです。
それほどまでに科学的なプロセスをどのようにしてタイプデザインに適応したのか、詳しく教えていただけますか。
現在、ソフトフェアによるタイプフェイスはある特定の手法でデザインされています。それが、ベクターとベジェ曲線9を用いながらポイントで全ての要素をつなぎ合わせる方法で、ポイントを特定の場所に置くことで、文字を形成するシェイプを描くことができます。ですが、最適化工程を発見してから、僕は「文字を書くときにポイントを最低限まで減らしたらどうなるのだろうか」と考えるようになりました。それを実践するためにベジェ曲線の使い方を覚えて、ベジェ曲線を使って最低限のポイントで文字を描きました。
「文字」という単語を言うときに僕が差しているのは、実は「文字の構造」という意味です。仕上がりを目にして、はじめは不自然に感じましたが、重要なのはこのプロセスを通してどのようなことができるかを検証することでした。この時点で出来上がっていたのは構造のみで、シェイプはありませんでした。そこで、「これらの構造をベースに、シンプルで機械的で最適な手法を用いてシェイプを作るにはどうすればいいだろう」と考えました。その結果、「平行移動」10という手法を通して構造からシェイプを作り出すことにしました。グリッド上で要素を動かすための、数学的なプロセスです。
最終的に、文字のシェイプを形どることはできましたが、まだ実用性に欠けていました。そこで、通常のタイプデザイナーにスイッチを切り替えて、文字が読みやすくなるように描き直しました。これが先ほどの説明にあった、はじめに機械的なプロセスが来て、次にタイプデザイナーのマインドセットが続く、ということです。
プロセス重視型の段階とデザイン段階を比べたときに、どちらかを優先することはありますか。
プロセスの発案段階はとても楽しい部分です。良い手法が見つかればシェイプも自然についてくるので、充実感に満たされるからです。しかし、最後まで何が出来上がるかわからないなかで暗中模索しなくてはならない点は障壁です。ストレスは多いですが、大きな刺激もあります。一方で、タイプデザイナーとしての作業では、文字を読みやすく、美しくするために、非常に主観的な判断を下すことになるので、全く違うタスクが生じて来ます。僕の影響が反映されかねません。だからといって、プロセスが台無しなるとは考えていませんが、出来上がりへの影響は懸念されるので、なるべく抑えるようにしています。
プロセスの発案段階はとても楽しい部分です。良い手法が見つかればシェイプも自然についてくるので、充実感に満たされるからです。しかし、最後まで何が出来上がるかわからない(中略)点は障壁です。
デザインに対する考え方
タイプデザインとエディトリアルデザインへの取り組み方は、どのような点で異なりますか。
タイプフェイスは、自分以外の人たちに使ってもらうためにあります。他の人たちが実際に使うツールだということもあり、クオリティーに責任を感じます。書籍などのエディトリアルを作るときも、他の人たちが使用できるものに仕上げなければならないという制限は感じますが、フォントほど実用性のあるツールではありません。なので、エディトリアルのプロジェクトを担当するときは、新しいことを試しながら遊ぶ自由があるように感じます。11
タイプデザインと異分野の掛け合わせを楽しんでいるようですが、特にこうした要素を重要視しているのでしょうか。
グラフィックデザインを産業的な文脈に引き戻すことに強く興味を感じています。重工のための仕事もしたいけど、彼らが用いるプロセスとそれをグラフィックデザインに適用する方法も理解したいと思います。何世紀前、モダニズム12やLászló Moholy-Nagy(ラースロー・モホリ=ナジ)13らの作品によって、グラフィックデザインと製造プロセスは強く関連付けられていました。1920年頃にMoholy-Nagyが残した言葉で僕がとても好きなのが、「新時代のアーティストたちは、エンジニアの仕事に備わる美学を発見した」というものです。14グラフィックデザインを当時のポジションに戻す、というアイデアに刺激を感じます。
時代は変わり80年代後半に入ると、工業とデザインの世界に架け橋を渡す人物が登場しました。それが、Donald Knuth(ドナルド・クヌース)15です。彼はエンジニアでしたが、タイポグラフィーにも大きく貢献しています。彼がデザインしたMetafont(メタフォント)16という言語は、タイプフェイスをその構造から形どるための新手法を生み出しました。彼は他にも、TeX(テックス)17という、科学文献を高度な精度と品質でレイアウトするための言語も書いています。これらふたつのツールは、今日の基準から見ても非常に革新的で先見的な発明とされています。
1920年頃にMoholy-Nagyが残した言葉で僕がとても好きなのが、「新時代のアーティストたちは、エンジニアの仕事に備わる美学を発見した」というものです。グラフィックデザインを当時のポジションに戻す、というアイデアに刺激を感じます。
日本文化からのインスピレーション
作業プロセスを考えるときに、あなたがこれまでに受けてきたインスピレーションはどのように活かされてきますか?
直感で思いつくプロセスもあれば、熟考して思いつくものもあるので、場合によって異なってきます。18例えば、Haneda(ハネダ)は、日本滞在中に着想を得たタイプフェイスです。インターンシップ中、19タイプフェイスに関わることはすべて大学のために記録するようにしていました。
日本でとても面白いと思ったのは、フランスのようにポールを用いるのではなく道路に直接標識記号を表記している点でした。東京の道が重なり合っている点も加わることで、東京という街に非常にユニークな景観と雰囲気が与えられているのだと思います。20あたり一面にタイプフェイスが溢れていて、あまり内容を理解できない僕にも魅力的に思えました。まるで本のなかを歩いているような気分がしました。なので大量の写真を撮影して、記録した日本の道路標識に使われていた文字の形をラテン文字に適応したのです。一度タイプフェイスにしてから、故郷のブルターニュで実際に標識記号を道路に直接描いてみました。こうしたアイデアは全て、東京で適当に歩き回っていたときに思いついたプロセスから着想を得ています。
なぜ日本だったのでしょうか。日本文化に惹きつけられる理由とは?
フランスと日本の文化は、地球の裏側で全く別々に発展してきました。幼い頃から、宮崎駿21のアニメを見るうちにその違いに気づいていていました。最近では、河瀬直美22や村上春樹23の作品がとても好きです。北野武24や園子温25の大ファンでもあります。こうした背景があり、日本に足を運び、日本文化がフランス文化とどれほどかけ離れているのか、こうした差異がビジュアルやフラフィックの要素にどう影響しているかを見て、学び、理解したかったのかもしれません。
日本への関心は、日本滞在中にかなり高まったと思います。周囲の人が何を言っているのか分からないのが悔しかったので、フランスに帰ってから日本語の勉強をはじめ、今は日本から持ち帰ったものを見て、当時見逃したものがないか確認しながら多くの時間を過ごしています。幸運にも日本からは大量のものを持ち帰ってきたので、それを読んだり見たりするだけで、まるで日本に戻ったかのような気持ちになります。26
西洋と日本では、タイプの制作過程や規制が異なります。27 インターンシップ中、日本の方法に順応するのは大変でしたか?
日本では全てが厳密な規制の下で管理されていたので、プロ仕様のエディトリアル作品の作り方を学ぶことはできましたが、フランスで使用していたものとはかなり異なるものでした。はじめは、あまりやる気が起きませんでした。少し難解だったし、僕には全ての規制を厳守する理由がわからなかったので、上司とは距離を感じていました。今考えれば、フランスから日本のグラフィックデザインに来て全てのルールを変えようとするなんて、少しうぬぼれた考え方だったかもしれません。あまりにも世間知らずでした。彼らの仕事の仕方が彼らの文化とも密接な関係を持っているという点に、もう少し注意を向けるべきでした。もしも今日日本に行くとしたら、こうした点をもっと尊重するつもりです。滞在終盤には少し成長して環境に馴染むことが出来ましたが、それでは遅すぎました。
今後の活動
今後の計画はありますか。
今は、自分のウェブサイトを制作していて、これまでに作ってきたフォントを全て掲載し、「Bretagne(ブルターニュ)」28というタイトルをつけるつもりです。他にも、仲の良くしている友人のJames Briandtと共同でデザインスタジオの立ち上げに取り組んでいます。Jamesとは、エコール・エスティエンヌの学士過程で一緒に学んでいました。彼はインタラクティブデザインを1年勉強した後に、写真を専攻しています。彼はイメージ、僕はタイプフェイスに興味があるので、仕事での相性が良いんです。29僕らが扱うのは基本的にグラフィックデザインですが、ファッショや工業関係のエディトリアルを中心に取り組んでいます。スタジオは、「Dreams Office」30という名前にする予定です。少しずつ規模が大きくなっていて、2017年4月には僕たちの母校、エコール・エスティエンヌで初めての展覧会を開催する予定です。
- Velvetyneは活字鋳造所またはタイプフェイスのデザインを行う、2010年設立の会社。 2016年初頭にLucasは「Sporting Grotesque」というフォントをVelvetyneにて発表しており、同フォントはThe Conran Shop(ザ・コンランショップ)と「It’s Nice That(イッツ・ナイス・ザット)」がロンドンデザインフェスティバルでパートナシップを組み行ったインスタレーション『A Load of Jargon』など、さまざまなプロジェクトで使用されている(ティザービデオは以下をご参照)。Lucasは、このフォントがフットボールチームに採用されることを祈っている。 ↩
- エコール・エティエンヌは、パリの南東エリアに校舎を置く、ビジュアル・コミュニケーションとブック・デザインを専門とする私立のアートスクール。著名な卒業生に、Justice(ジャスティス)のメンバーであるXavier de Rosnay(グザヴィエ・ド・ロズネイ)、Charlie Hebdo(シャルリー・エブド)にも寄稿しており2015年1月にパリで起きた襲撃事件で他界した風刺画家のCabu(カブ)など。 ↩
- Lucasは、「祖父と父はどちらも船員だったので、幼い頃は船の近くでよく時間を過ごしました。船の内部が巧みに計算されていて、あんなに狭い場所にたくさんのものが設備されていることに、驚いてばかりでした」と語ってくれた。It’s Nice Thatが行ったインタビューでも、彼は「JF-15は、ブルターニュ地方の船員を写したポートレイトから書き出されたタイプフェイス」と説明している。 ↩
- Lucasは、フランスにおいてイギリスのアートファウンデーションコースと同等とされる大学進学準備コース、MANAA(仏語で「Mise à niveau en Arts Appliqués」の略)をブルターニュ地域圏の都市カンペールの国立高等学校で修了した。 ↩
- Lucasは、高校で「baccalauréat scientifique」という数学、物理学、科学、地球生命科学の重要度が非常に高いフランスの大学入試資格を取得しているほか、エンジニアの両親を持つ。 ↩
- Lucasは、「ソフトウェアの制作についてさまざまな研究を行ってきた」というAnthony Masure(アントニー・マズール)の協力のもとで、卒業論文『The Writing of Programmes』を書いたとインタビュー後に付け加えている。マズールは、デジタルにおける美学、デザイン、理論を専門とする研究者及び大学講師として活躍している。 ↩
- タイプデザインのデザインには、RoboFont(ロボ・フォント)、Glyphs(グリフス)、Lucasのお気に入りであるFontlab(フォントラブ)など、さまざまなソフトウェアが用いられる。 ↩
- 最適化は、主に数学の領域で知られる理論及び方法論だが、工学や経済学といった数的推理を必要とする分野でも用いられている。一般的な最適化は、正確な入力値を選択し、実数函数を最大化ないし最小化することで行われる。 ↩
- ベジェ曲線は、主にグラフィックデザインにおいて滑らかな曲線を描くために用いられている。1912年には発明されていた技術にも関わらず、ベジェ曲線がグラフィックに適用されたのは1962年にフランス人エンジニアのPierre Bézier(ピエール・ベジェ)がフランスの自動車製造会社、Renault(ルノー)で自動車の車体をデザインするために用いたのが初めてだった。Adobe(アドビ)がベジェ曲線をIllustratorのツールに加えたのがきっかけで、こうした用途が一般した。 ↩
- 平行移動とは、図形または空間の形を保ちながら、その全ての点を特定の方向に移動させること。以下の写真は、平行移動の使い方を説明。 ↩
- その一番の例が、Lucasが日本でのインターンシップ後に行ってきたプロジェクトだろう。彼は顔文字を用いて、Lucasがエディトリアルに期待できる自由と愉快さを表現している。詳細は彼のウェブサイトへ。 ↩
- モダニズムとは、工業社会化や都市化など、19世紀後における半西洋社会の変容に起因する、哲学・文学・芸術運動。 ↩
- László Moholy-Nagyは、テクノロジーと工業のアートとの融合を提唱した、ハンガリーのペインター、写真家。 LucasはこうしたMoholy-Nagyの思想に共鳴している。バウハス教育の教授であるMoholy-Nagyは、タイポグラフィーとフォトグラフィーの総合体である「タイポ・フォト」のコンセプトを発展させており、「タイポグラフィーは書体に収められたコミュニケーション」であり、「フォトグラフィーは光学的に感知することのできるものの視覚的な表現」であることから、タイプフォトを「コミュニケーションの最も的確な視覚表現」と呼んでいる。以下は、ラースローが「Foto-Qualitat(フォト・カリタット)」のためにデザインしたタイポ・フォトのカバー。参考:ICONOFGRAPHICS ↩
- 1947年、モホリ=ナジ・ラースローの死後に出版された彼の著書『動きのなかの視覚』からの引用。同書籍はここで読むことが出来る。(英語のみ) ↩
- Donald Knuthは、飛躍的なコンピューター科学理論の数々を発見し、自身の名前にちなんで名付けられた2つのアルゴリズムを発達させたことで知られる、アメリカのコンピューター科学者。 クヌースの興味は、フォントを形成するMetafontのコンピューター言語である、TeXのコンピューター上の写植システムを開発するための写植にも及んでいる(以下の写真を参照)。TeXとMetafontの説明は16と17の注釈を参照。 ↩
- Metafontとは、ベクターフォントの形成に用いられるコンピュータ言語のこと。2012年、「自分のフォントを容易に調整することができるウェブアプリ」として「Metaflop(メタフロップ)」というオンラインツールがリリースされた。言い換えれば、フォント・パラメーターセットのMetaflopのモジュレーターを変更するだけで、コードの知識が全くなくても、単にスライダーと数値を変更することでMetafontを使用することが出来るようになる。 ↩
- TEXは、Donald Knuthが1978年に発表したコンピューター上の写植システムのこと。その開発目的として、以下2つの目標があげられる。まず、誰しもが最小限の手間で高品質の書籍を制作出来るようにすること。そして、いかなるコンピュータで同様の結果が得られるようにすること。TEXは無料プログラムのため、広範囲のユーザーに使用可能である。Lucasは、文字の行端をほぼ完璧に揃えることを可能にしたKnuthの功績を、「膨大な時間と思考を要する研究だったけど、素晴らしい価値がある」とLucasは賞賛する。その価値が認められて、現在ではAdobeやInDesign(インデザイン)など、数多くの他社製品にもKnuthによる文字の行端揃えのアルゴリズムが取り入れられている。 ↩
- Avara(アヴァラ)は、Lucasがデザイナー兼アーティストのRaphaël Bastide(ラファエル・バスティード)のプロセスを用いてデザインしたフォント。It’s Nice ThatのインタビューでLucasが説明しているように、「そのコンセプトは、曲線を使わずにグリッドを厳格になぞりながら人文主義的なフォントを作ること。フォントは、オープンソースとして公開。そのサンプルを使用して、ユーザーが独自のサンプルを作ることが出来る」。Avaraのタイプフェイスはここから入手可能。 ↩
- Lucasは、横浜のデザインスタジオ「Nosigner」でインターンシップを経験。就業期間中に「Nosigner」が前から使っているオリジナル書体の微修正ブラッシュアップ「案」を彼が作り、その「案」からできたフォントは東京都庁が地震発生時に備えて市民を対象に発行したガイドリーフレット『東京防災』で使用されている。ガイドのために制作されたこのフォントだが、のちにNosignerのビジュアルアイデンティティーのひとつとして採用されており、同デザインスタジの他のプロジェクトでも使用されている。 ↩
- 下記写真に写っている東京都の箱崎ジャンクションは、代表的な例のひとつである。さらに本インタビュー終了後、他の例としてLucasは河津七滝ループ橋の名をあげている。 ↩
- 宮崎駿は、卓越した話術で国際的な地位を築いているほか、自身が設立にも携わったスタジオジブリのアニメ映画製作者として知名度の高い日本の映画監督。 主な作品に、『となりのトトロ』、『もののけ姫』、『千と千尋の神隠し』、『ハウルの動く城』、『風立ちぬ』など。2013年に制作された砂田麻美監督『夢と狂気の王国』では、宮崎駿とはじめとするスタジオジブリの製作者の作業現場を映し出している。 ↩
- 河瀬直美は、ドキュメンタリーとフィクション作品の両方で評価を集める日本の映画監督。 カンヌ国際映画祭には1997年から出席し、2度審査員に選出されたほか、 2007年に『殯の森』で受賞したグランプリなど複数の受賞歴を持っており、長年に渡って関わっており、出席者からも高い支持を得ている。『殯の森』の予告は以下をご参照。 ↩
- 村上春樹の小説は国内にとどまらず各国でベストセラーを記録しており、最近では、幻想的なカルトと現実と異なる世界に迷い込んだ2人の恋人にまつわる小説『1Q84』3巻構成で上梓している。その日本離れしたスタイルがしばしば指摘されているが、村上は幼少期からロシアの音楽や文化をはじめとする西洋文化に影響を受けてきたという。1974年から1981年には、早稲田大学に通いながら妻と千駄ヶ谷でジャズバーを経営するなど、異例の経歴を持つ。 ↩
- 北野武は、日本のお笑い芸人、司会者、映画監督、俳優、作家、脚本家。 Lucasは、青年が夏休みに母を探し歩く物語、『菊次郎の夏』が北野作品の一番のお気に入りだと語る。 北野は日本はお笑い芸人としての知名度が高いが、海外では映画監督としての顔のみが知られている。 ↩
- 園子温は、日本の映画監督、作家、詩人。 2011年発表の『ヒミズ』が代表作として知られる。 ↩
- Lucasは、日本から持ち帰ったものの一部をUs Blah + Me Blah編集部と共有してくれた。まず彼が見せてくれたのは、雑誌『Esquire(エスクァイア)』のかなり年季の入った号で、日本版にもかかわらず白人モデルばかりが起用されている点から、当時の日本における広告業界がいかに欧米中心のものだったかを読み取れる。さらに彼は、その美しさと綿密なリサーチが際立つデザイン専門の季刊誌『アイデア』(373号、以下写真参照)を紹介してくれた。 最後に、編集部は2012年に最新号が発刊されて日本の雑誌『here & there』に目を通した。フランスの雑誌『Back Cover』の日本特集号では、本誌のアートディレクター服部一成に関する記事を読みことができる。 ↩
- Lucasと編集部は、彼が使用する高効率プロセスを日本フォントに転用することで、高いパフォーマンスが得られる可能性について意見を交わした。しかし、日本語には5万以上の文字が含まれるために西洋のタイプフェイスのように一筋縄には扱うことができない。Lucasは、「モリサワ のような日本のタイプデザインオフィスでは、大勢のタイプフェイスデザイナーがコンピュータの前に列を成しながら、ひとつのフォントのために作業をしているから、まるで工場のようだ。日本語のタイプデザインには4〜5年はかかることがあり、作業を始める前に明確なプランを立てる必要があるために、デザイン開発に余計時間がかかるのかもしれません。フランス語のように、流行に乗って1ヶ月でフォントを作ることはできませんからね」。モリサワ制作の以下ビデオでは、時間と労力を割くことで日本語フォントのデザインがいかに魅力的になりうるかを紹介している。 ↩
- Lucasの出身地であるブルターニュは、フランス北西部の文化地域。ウェブサイトは、こちらよりアクセス可能。 ↩
- James Briandtの写真作品は、こちらでチェック。他にもJamesとLucasは、「People From Belle Île(ピープル・フロム・ベル・イル)名義で音楽活動にも取り組んでいる。近日中に、新曲を5つ収録したEPをリリース予定。最新曲はこちらから視聴可能。 ↩
- 「(パリ)19地区のdalle des Olympiades(サル・デ・オリンピアード)という集合住宅によく一緒に出かけたよ。「Dreams(ドリームス)」というカラオケがあって、とてもミステリアスだけど美しくて、この名にちなんで僕らのスタジオを名付けようと思ったんだ」とLucasは説明してくれた。Dreamsはベトナム料理屋で、食事をしながら歌うことが出来る。Facebookページはここ。下記は、Lucasが撮影したDreamsの写真。 ↩
This interview was posted on 15 November 2016.
Interview (Us Blah) & Footnotes (Me Blah):
Tsukasa Tanimoto
Copy-editing (English):
Kate Reiners
Translation (English to Japanese):
Marie Sasago
Special Thanks to Ririko Sano.