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Charlie Allen

Young Triforce Cat Baron
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Charlie Allen(チャーリー・アレン)は、1995年生まれのミュージシャン。十代より作曲をはじめ、2012年に「Young Triforce Cat Baron(ヤング・トライフォース・キャット・バーロン、以下「YTCB」)」名義でデビュー。以降よりオンラインを中心に活動し、若干21歳とは信じがたいほどの実力を発揮。K-POPやアニメミュージックなど、東アジア文化に感化された作品がオーディエンスの心を掴み、デビュー直後から数え切れないほどのフォロワーを集めてきた。しかし、こうした成功にも関わらず、Charlieは音楽活動の一時休止を発表。西イングランド大学(University of the West of England)にてグラフィックデザインを専攻する彼が、卒業までの期間は学業に専念するという決断を下した結果だった。それでも、以下インタビューでも本人が語っているように、Charlieが学業面での決意を固め、日々精神的な成長を繰り返すことにより、彼の多彩な能力が十分に活かされた未曾有の作品が誕生し、彼がミュージシャンとしての自分と再び対峙することが可能となった。注目すべき才能の持ち主であり、今まさに躍進の時を迎えているCharlie は、彼が辿ってきたミュージシャンとしての道のりをどのように振り返るのか。彼の感性を刺激する音楽とは?そして、今やひとつのジャンルには収まりきらないクリエイティビティの将来を、彼はどう見据えるのだろうか。

Charlie Allen: Tumblr - Twitter
Young Triforce Cat Baron: Soundcloud

ミュージシャンとしての軌跡

これまでの音楽活動について教えて下さい。

ほとんどの期間はYoung Triforce Cat Baronとして活動してきましたが、他にもいくつか細々としたプロジェクトがありました。4、5年前までは、「Défi(デフィ)」という、フランス語で「チャレンジ」という意味の名前で活動していました。

僕がDéfiとして発表した作品は、今でもインターネット1のどこかで見つかるはずです。当時はパートの演奏から録音、ミックスまで全て自分でやっていたので、音楽的には今よりも優れていました。

作曲をはじめたきっかけは?

即興でピアノを弾いているうちに、曲を作るようになりました。だけど、コンピューターを使い始めたのは中学1年生から2年生かけてバンドを組みはじめてからなので、13歳あたりでした。ギターの録音をしていたら、ソフトウェアのほうに興味を持つようになったんです。

Young Triforce Cat BaronとしてのCharlie

YTCBとしての活動は、いつから続けてきたのですか。

大学入学直前ですね。当時は今より生産的に活動していたけど、Défiは約1年しか続きませんでした。

それから、17歳でYTCBをはじめました。おそらく、シックスフォーム 2 の1年目あたりで、学校の勉強は二の次で音楽を最優先していたので、今よりも気楽でしたね。落第は避けたかったけど音楽でも失敗したくなかったので、難しいバランスでもありましたが。

オンラインではあっと言う間にYTCBの名が広がりましたね。成功の理由をどのように考えていますか。

聞こえが悪いけど、最初はとにかく名前を認知してもらうために大勢のSoundcloudユーザーをフォローしました。そうでもしなければ、手持ち5曲にフォロワー数ゼロで万年待ちぼうけだったので。2013年に「2morrow」3 という曲でデビューしました。この曲が瞬く間に広まった理由は、2つ考えられます。まず、2013年末にRyan Hemsworth(ライアン・ヘムズワース)4がオーストラリアのラジオ局のために作ったミックスに「2morrow」を入れてくれたことは、今でも忘れません。5 それから、ヴロガー(ビデオ・ブロガーの略)のJenn Im(ジェン・イム)がビデオで「2morrow」を流してくれました。彼女はかなりのフォロワーを抱えているので、「この音楽最高。ジェン、曲名教えて。良い曲紹介してくれてありがとう」という具合に反応してくれる人が大勢いて、めまぐるしいスピードで再生回数が増えていきました。6

他の曲よりも「2morrow」が注目を集めた理由をどう考えますか。

僕のいつもの作風と比べると異色の曲でした。細かく刻まれてたギター音が入ってて、ゆったりとした雰囲気の曲です。ちょうど『さんかれあ』 というアニメを見終わったときに作曲をはじめたのですが、アニメのエンディングテーマがすごく気に入ったので、自分の曲に取り込んでみようと思ったんです。7それまでは、当時よく聴いていたLil Wayne(リル・ウェイン)などのラップからパターンをコピーして、トラップスドラムを取り入れたりしていました。そうしているうちに、徐々に自分のスタイルにハマってきたんです。トラップスドラムは自分の音楽との相性がよかったので、もう一度取り入れてみたいと考えています。

これまでに僕が作ってきた作品は聴きやすいけど、奥行きが足りないように感じるんです。他のアーティストが作った曲と比べると、未熟に聴こえてしまいます。まだまだ学習の余地がありますね。

これまでにはライブを行っていませんが、今後開催する予定は?

ライブは検討していません。今のままではラップトップで曲を流すだけになるので、ライブの要素があまりないんです。もしライブをするなら、MPD(ミュージック・プレイヤー・デーモン)の使い方を覚えたり、DJを練習したり、et aliae(エタリアエ)8のようにキーボードのライブ演奏ができるようにならないといけない。

音楽的影響

仕事面で影響を受けたアーティストは?

音楽でいえば、Taquwami(タクワミ)9です。彼の作品は他とは別格で、素晴らしく、卓越した曲ばかり。彼のスタイルにはかなりの影響を受けています。僕と似ていて、活動の頻度もまちまちなんです。だけど、おそらく一般公開していないだけで、今も何かしらのプロジェクトを進めているはずです。

音楽を制作するときに、一番集中するのはどんな部分でしょうか。

今は、音楽理論に没頭しています。バロック音楽の理論など、古典的で複雑なものに興味を引かれます。すべての理論を知ってみたい。音楽の善し悪しは僕にも分かるけど、当時の作曲家たちの驚くべき点は、音楽そのものを聴かずとも音を想像することが出来る人がいたり、現代で言うコンピューターや録音機が無くても作曲出来てしまったところです。現代と300年前のうまいバランスを見つけて、自分の作品にもバロック派やロマンス派の要素を取り入れたてみたいと思っています。コントラストが興味いので、素晴らしい曲、先駆的な曲が生まれるかもしれません。これまでに僕が作ってきた作品は聴きやすいけど、奥行きが足りないように感じるんです。他のアーティストが作った曲と比べると、未熟に聴こえてしまいます。まだまだ学習の余地がありますね。

東アジア文化への関心

「2morrow」が『さんかれあ』からヒントを得ていることからわかるように、YTCBの作品には東アジア文化の雰囲気が漂っています。こうした音楽的傾向は、個人的な興味から来ているのでしょうか。

音楽作りはまず大量のサンプリングをすることから始めたのですが、当時はK-POPの曲や『ゼルダの伝説』のサントラなど、自分が好きなものばかり録音していました。10自分自身が好きなものをサンプリングしていたので、そういう作品を一般公開することで、誰かが僕の作品を聴いて「こういうの好きなんだよね」と共感してくれることを期待していたんだと思います。

YTCBの作品に共感を覚えるフォロワーはたくさんいるでしょうね。僕も紛れもなく、そのうちのひとりでした!しかし、そもそもK-POPに興味を持ったきっかけは?

K-POPとは随分長い付き合いですね。 11ああいう非現実的な世界観に魅了されたはじめたのは、16歳のときでした。ロンドンで開催された韓国映画祭に合わせてSHINee(シャイニー)12がイギリスでライブをしたことがあって、その記事を新聞で目にしました。すると、僕の姉妹も同じ記事を読んでいたらしく、試しに彼らの曲をかけてみたら家族中で流行しはじめた。それがきっかけです。自分でいろいろと調べていくうちに、他のグループのことも知りました。K-POPはクリエイティビティに溢れていて、格好いい音楽性を放っています。

イギリスやアメリカの音楽と比べると、K-POPのどのような部分に魅力を感じますか。

イギリスやアメリカでは音楽業界の規模が大きすぎるからか、実際の曲作りに関わらせてもらえるのが作曲家やプロデューサーに限られているように思います。対照的にアジアでは、メインストリームも含め、多くの曲がもう少し健全な方法で、しかもきちんとした理論を踏まえて制作されているように感じます。13だけど、僕がそういう部分ばかりに注目しているからそう思えるのかもかもしれません。イギリスにも健全な音楽はたくさんあるはずです。

グラフィックデザイナーとしてのCharlie

現在、西イングランド大学でグラフィックデザインを勉強されているそうですね。しかし、音楽を専攻しようと考えたことはありますか。

大学で音楽を専攻していたら、状況が変わってしまっていたと思います。音楽は趣味の一環に止めていたいと考えてきました。趣味を職業にまで発展させることが出来る人はたくさんいるけど、僕にはそれが出来ないんです。

正式に音楽を学んだことはないけど、興味を引かれた音楽理論については自分で勉強するようにしています。独学がいちばんの方法だと言うわけではないのですが。最近はインターネットでどんな情報も見つかってしまうけど、第三者から教わったほうが楽だと思います。僕は、大抵インターネットを使ってしまうけど、テキストも参考にしながら自宅で勉強しています。教えてくれる人がいると効率は上がるけど、情熱は消えてしまうと確信しています。

グラフィックデザインの面では、どのようなデザイナーを目指していますか。

スタジオで広告や企業の仕事ばかりしているデザイナーにはなりたくない。人に経験を提供できるようなデザインと関わりたいです。ブックカバーがその良い例ですね。それから、(筆者に)見せてもらったHato Press(ハト・プレス)14 の作品は、アイデアがあったから実際に手を動かしてみたって感じのものがほとんどですよね。僕もそんな風に働きたいと思っています。

あなたの作品の多くには、いわゆる「インターネット・アート」や、その周辺美学に影響されているものがあるように感じます。こうした方向にのめり込んでいった理由について教えて下さい。

僕の弱点です。僕が惹かれるものにも、こういった美学に感化されたものが溢れていて、避けようとしても避けられないものでした。インターネットミュージックを通して次々と広まっていて、人気が高くなりつつあるスタイルです。僕がTumblrでフォローしている「Booksfromthefuture(ブックスフロムザフューチャー)」15などのデザインブログからも、たくさんのアイデアを受けています。現代的なものの終わりなきつながりですね。世に出たばかりのものからインスピレーションを得るには、うってつけの場所ですね。

今後の活動

この数ヶ月、音楽活動はあまり活発ではありませんね。近日中に作品を発表する予定はあるのでしょうか。

今は、いつもに増して制作が滞っています。音楽を作っていないわけではありませんが。いろいろなアイデアや実験を試しているけど、良し悪しの判断がつけ難い曲が山積みになるばかりです。今は、自ら納得して人に聴かせることが出来る曲しか発表したくない時期なんだと思います。自ら納得出来て、かつ人の刺激になる作品をそうでなくても忘れられないほど印象に残ることができる曲を書くのは、なかなか難しい。

自分のスタイルを見直したうえで今までとは全く別の作品作りに取り組むなかで、戦していきたいスタイルは山ほどあります。次のリリースがいつになるかはわからないけど、これまでの作品を超えた特別な作品を作ると決めています。

今は、自ら納得して人に聴かせることが出来る曲しか発表したくない時期なんだと思います。自ら納得出来て、かつ人の刺激になる作品をそうでなくても忘れられないほど印象に残ることができる曲を書くのは、なかなか難しい。

音楽とグラフィックデザイン、どちらの領域でも素晴らしい才能を発揮されていますが、ふたつをかけ合わせたような活動は視野にいれていますか。

音楽から何まで、すべて自分で手がけたショートフィルムなどの作品を作ることに興味があり、アニメーションも学びたいと考えています。例えば、新海誠(しんかいまこと)の作品16のようなものを作りたいです。心のどこかでは、なんでもこなせる博識者を目指しているのかもしれません。まだ限られた範囲のことしかできていないので、今までよりも努力しないといけないですね。

大学のプログラムの一環で1年間留学していた香港から戻ったばかりですね。こうした経験からアイデアを得てはじめた個人プロジェクトはありますか。

香港は刺激的な場所です。大学での勉強は刺激とは正反対の場所でしたが、香港で過ごした経験を活かして、どうしても作りたい作品があります。特に実現したいのが、店の看板、標識、カフェのメニューなど、日々香港で発見したデザインを紹介する本かZINEの出版です。香港では九龍(きゅうりゅう)という少し風情があって、薄汚い地域に住んでいました。道を歩いていると、普通の人なら「ダメなデザイン」と言いそうなものが目に飛び込んでくるのだけど、僕にとってはこれが最高でした。人が作ったデザインには、その場所の雰囲気を一番よく反映しますよね。タイポグラフィー、色づかい、ものの組み合わせかた、間違った表記が素晴らしいものもありました。僕が頭に浮かべているアイデアは、こういうデザインの例やスタイルを記録して、線画に起こして、香港のグラフィックデザインを凝縮して見せることです。

それから、略称粤拼 (ピンイン)という、粤語(広東語)をラテン文字によって表記するために作られたけど、実際はあまり使われていない表記法を用いた作品を作ることにも興味深々です。グラフィックが非常に面白くて、ひとつひとつの文字がに音調を表すための1から6の数字が組み合わせられているんです。例えば、「Hoeng1 Gong2」は「香港」を意味します。発音区別符号を無視していたり、ラテン語のような僕らが毎日目にするアルファベットの二次的な役割を果たしている文字にはごく興味を引かれます。ベトナムの表記を見ても、タイポグラフィーのアイデアが次々に浮かんできます。

  1. Charlieが説明する通り、Défiの最新作「Heavenly Mountains」はここで再生することができます。「最新」と言っても、すでに4年前!
  2. シックスフォーム(sixth form)とは、義務教育終了後に大学進学希望者が進む高等教育進学準備教育課程。
  3. 「2morrow」は以下を参照。
  4. Ryan Hemsworthはカナダ出身のエレクトロ系ミュージシャン、DJ。
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    自ら運営するオンラインのコンピレーション・プロジェクト「Secret Songs」において、隔週でリリースを無料配信している。
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  5. Charlieが述べているのは、Ryan HemsworthがTriple J(トリプルJ)のために制作した「Koalas & Echidnas」というミックスのこと。
  6. Clothes Encounters」を配信するファッションヴロガー。2013年末投稿のビデオ「Jenn Goes to New York」で「2morrow」を使用している。
  7. 『さんかれあ』は、他界した少女がゾンビになるという設定で描かれたはっとりみつる原作の漫画。
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    アニメ版のエンディングテーマは、日本人シンガーAnnabel(アナベル)の「Above your hand」が起用されている。
  8. et aliaeは、シンガポール出身、ロンドンを拠点に活動するプロデューサー。近年までロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズでグラフィックデザインを専攻していた。
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    ニューヨークとロンドンに本拠地を置くインディペンデントレーベル、Cascine(カッシーヌ)より、2016年3月にデビューEP『Rose』をリリース。
  9. Taquwamiは、川崎を拠点に活動する、日本のエレクトロニックミュージシャン。Charlieが述べるように活動はおとなしいが、2015年末にEP「Moyas」をリリースしている。
  10. 例えば、「♡してる」では12秒目に『ゼルダの伝説』の「シークレットサウンド」が使用されている。
  11. インタビュー収録後、Charlieはお気に入りのK-POPグループとして、EXO(エクソ)、2NE1(トゥエニィワン)、Girl’s Day(ガールズデイ)、防弾少年団、 INFINITE(インフィニット)をあげてくれた。FIESTAR(フィエスター)の「We Don’t Stop」はコーラスが素晴らしいらしい。(以下ビデオ参照)
  12. SHINeeは、K-POPグループのなかで国際的に最も有名な韓国のボーイズバンドで。
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    メンバーは、それぞれ個人でも活動を行っている。なかでもジョンヒョンは、ニューアルバム「She Is」で注目を集めている。
  13. Charlieと似た観点からCalum Bowenがメインストリームミュージックへの見解を述べているインタビューはこちら
  14. Hatoとは、正式にはStudio Hato(スタジオ・ハト)というデザインスタジオ、Hato Press(ハト・プレス)出版社、印刷会社のこと。後者はリソグラフ印刷に特化しており、あらゆるアーティストやイラストレーターとコラボレーションを行いながら書籍、印刷物、文房具を制作している。
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  15. Booksfromthefuture」とは、Yvan Martinez(イヴァン・マルティネス)とJoshua Trees(ジョシュア・ツリーズ)による「これまでにない学習と出版を試すためのプラットフォーム」のこと。ブックデザインの紹介により注目を集めるTumblrのキュレーターであり、ブックデザインと出版について学ぶことのできる10日間構成のサマースクールを毎年開催してる。
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  16. 新海誠は日本のアニメディレクター。『雲のむこう、約束の場所』という作品で広く知られている。
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This interview was posted on 31 July 2016.

Interview (Us Blah) & Footnotes (Me Blah):
Tsukasa Tanimoto

Copy-editing (English):
Kate Reiners

Translation (English to Japanese):
Marie Sasago

Photography:
Charlie Allen